腱板断裂の治療(概論1)

こんにちは。札幌市豊平区の日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会スポーツ医の合六孝広です。

中高年で肩の痛みにお困りの皆様!腱板断裂という病気があります。

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この記事はこんな人にお勧め!

・肩が痛くて、病院を受診しようと思っている人

・腱板断裂と診断されて、薬を飲んだり、注射をしている人

・腱板断裂と診断されて、手術を考えている人

この記事を読めば、どのような治療を選択すべきかの参考になります。

保存治療と手術治療 どちらを選択すべき?

腱板断裂の治療には、
保存治療 ~ 薬を飲んだり、注射をしたり、リハビリを行う
手術治療
があります。一般的には3~6か月間、保存治療をして、症状の改善がなければ手術と説明されることが多いと思います。実際は、各個人ごとに異なります。どのように考えるといいか解説していきます。

保存治療の利点、欠点

利点

・ 合併症を起こすことはほとんどなく、痛みを軽減できることが多い。

・ 外来通院で行うことができる。

・ 費用が比較的低い

欠点

・ 断裂した腱板が治癒することない。

不全断裂や非常に小さい完全断裂なら修復される可能性が0%ではないのかもしれないが、基本的に断裂が治癒することはなく、徐々に大きくなっていく。

・ 痛みの再発が、いつかは起こる。

手術治療の利点、欠点

利点

・ 上腕骨に腱板を縫合することができれば、断裂した腱板が治癒する

・ 腱板が治癒すれば、痛みが消失または軽減することが多い。肩の機能の改善も大きい  

欠点

・ 縫合しても断裂した腱板が治癒しないことがある

・ 合併症を起こすことがある

・ 入院が必要 

・ 手術後、無理できない、リハビリも必須

・ 費用が高い

どちらの治療を選択するかを決める要素

以下の要素を総合的に判断して、お勧めの治療を私は提案しています。どちらの治療を選択するかは、最終的に各治療の利点、欠点を考えて、患者様ご自身で決める必要があります。もちろん、医学的に考えて明らかに手術適応がない場合もあります。

治療の目標

A ~ いまは、仕事やプライべートが忙しいので痛みだけをとればいい

B ~ 痛みだけでなく、今後のために根本的な治療をしたい

Aが目標なら、保存治療です。
Bが目標なら、手術治療です。

痛みの強さ

軽い痛みで日常生活で困ってない場合は、通常保存治療を行います。

断裂の程度と大きさ

不全断裂

・ まずは保存治療の適応

・ 特に腱板の厚さの25%未満しか断裂してない場合は、手術になることは稀

・ 6か月前後保存治療をしても症状が改善しなければ、手術を考える。

完全断裂

どちらの治療を選択するかは、断裂の大きさで決まります。イメージとしては、グラフのようになります。
つまり、小さい完全断裂はまずは保存治療を行うことが多く、大きい完全断裂は早目に手術を行う。
その理由は、

断裂が大きくなりすぎると腱板を上腕骨に縫合できなくなる。縫合できたとしても、治癒しない(再断裂)確率が高くなる。

ただし、5㎝以上の非常に大きい断裂で腱板を上腕骨に縫合できないような場合は、まずは保存治療を選択する。

筋肉の脂肪化(脂肪浸潤)と筋肉の萎縮

腱板断裂の状態が続く

徐々に腱板の筋肉の部分が脂肪化(脂肪浸潤)し、萎縮する

脂肪化や萎縮の程度が、軽度のうちに手術を選択すべき

正常の腱板の筋肉部分(黄色→):ボリュームがあり、筋肉が黒く写っている(脂肪化してない)

断裂後、時間が経過した腱板の筋肉部分:棘上筋の筋肉が萎縮(赤→)、棘上筋と棘下筋、肩甲下筋の筋肉が白く写っており、脂肪化を表している(青→)

脂肪化や筋萎縮が重度にならないうちに手術を勧める理由は、

脂肪化や萎縮がだいぶ進んでから手術をした場合、縫合した部分が治癒しない(再断裂)する確率が高くなる。また腱板が治癒した場合でも、機能の回復がやや劣る。

年齢や活動性

・ 若い人やスポーツ、肉体労働をしているような活動性の高い人 → 手術治療

・ 高齢な方や活動性の低い人 → 保存治療

他の病気の有無

・ 健康な人 → 手術治療

・ 心臓の病気や糖尿病、肝機能障害や腎機能障害がある → 保存治療 

手術後に安静が保てるか

断裂の状態によって変わりますが、概ね
・ 手術後3か月までは家事レベルのことでさえ、制限する必要がある。
・ 手術後6か月まで重労働やスポーツができない

もし上記を守らず無理をすると、縫合した腱板が治癒しない(再断裂)可能性がかなり高くなります。
家庭や仕事の事情で手術後安静が保てない場合は、保存治療を選択します。

手術後にリハビリができるか

手術後にリハビリを行わないと、
・ 関節の動きが非常に悪くなる
・ 筋力が回復しない

そのため、腱板が治癒したとしても痛みが残り、肩の機能も回復しません。リハビリができない場合は、保存治療を選択します。

まとめ

1.どの治療がベストかは、各個人で違う。

2.肩の状態だけでなく、全身の状態、社会的な要因も重要である。

今後、腱板断裂の保存治療や手術治療のことについて、詳しく解説していく予定です。ぜひご覧ください。

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