肩の腱が切れた!原因は?ケガ?老化?

こんにちは。札幌市豊平区の日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会スポーツ医の合六孝広です。

中高年で肩の痛みにお困りの皆様!腱板断裂という病気があります。

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この記事はこんな人にお勧め!

・肩が痛くて、病院を受診しようと思っている人

・腱板断裂と診断された方

・肩が痛くて、手術を必要と言われた方

この記事を読めば、腱板断裂の原因がわかります。外傷で断裂する場合と自然に断裂する場合があります

外傷で断裂

これは、イメージしやすいと思います。通常、直後に腕を上げることができなくなります。

・ 転倒や高い所から落ちて、肩を直接強打した
・ 転倒して、手をついた
・ 倒れてきた重いものを支えた
などがあります。

特に転倒して肩を脱臼した場合、40歳以降はかなりの確率で腱板が断裂することがわかっています。脱臼を整復した後に肩を挙上できなければ、MRI検査をした方がいいでしょう。

自然に断裂

「 自然に断裂するの? 」と思われる方も多いと思います。かなりの頻度で自然に断裂します。
どうして、自然に断裂するのか?

・内的要因(腱板自体に原因がある)
・外的要因(腱板の外に原因がある)

があります。以前は外的要因が、主な断裂の原因と考えられていました。
 その後いろいろな研究がされ、現在は内的要因が主な原因とされています。外的要因に関しては、高いエビデンスのある論文がないので、「 原因となる可能性がある。」という状況です。

では内的要因と外的要因について、解説します。

内的要因

加齢に伴う腱板の変性

加齢に伴い、腱板自体が変性してきます。顕微鏡で見ると
・ 方向性の乱れたコラーゲン線維
・ 粘液化部分の出現
・ 硝子化した部分の出現

などが出現します。それとともに、腱の強度も低下することがわかっています。そして、40歳を超えると年齢が上がるにつれて、腱板断裂の頻度が上がることもわかっています。

加齢に伴う腱板の血流減少

加齢に伴って、腱板への血流が減少します。これによって、変性が進むと考えられます。

負荷の集中

腕を横から上げると、腱板に均一に負荷がかかるわけではありません。

ちょうど腱板の関節面不全断裂がよくある付近(赤い部分)に一致して、負荷がかかることがわかっています。

つまり、人が腕を上げる動作を繰り返すことで、一定の部位の腱に負荷が繰り返されて、徐々に断裂していくと考えられます。

腱板の関節面不全断裂がよくある場所(赤部分

遺伝的素因


どんな遺伝子が関係しているかはわかってません。しかし疫学研究で、関連が示されています

腱板断裂と診断されて、家系が詳しくわかっている患者を対象にした研究があります。そのような家族では腱板断裂になっている人の割合が、著しく高かったと報告されています。

喫煙

・ 喫煙をすると、腱板の血流が減少する。
・ 一日にたくさん喫煙するほど、喫煙年数が長いほど、腱板断裂の頻度が高い

ことが報告されています。

つまり、煙草を吸うほど血流が減少し、腱板の変性が進む。結果として、断裂しやすくなると言えます。

外的要因

肩峰下インピンジメント

肩峰下インピンジメントが、腱板断裂の原因になるかは整形外科医の間でも意見が分かれています。

どのような説かというと、肩を挙上すると腱板とその上にある肩甲骨の肩峰部分が衝突(インピンジメント)することが、腱板断裂の原因とする説です。1972年にアメリカの整形外科医、Charles S. Neerが提唱しました。

右肩正面図

ここから肩を挙上すると

で示すように肩峰と腱板が衝突する

Neerは肩峰下インピンジメントによって、腱板炎→腱板不全断裂→腱板完全断裂と進行していくと考えました。
1972年に彼は、腱板炎や腱板不全断裂、完全断裂の症例に対して、衝突する肩峰を削り(肩峰下除圧術)、腱板が断裂していれば同時に修復するという手術をして良好な成績を得られたと報告しました。

肩峰下除圧術:烏口肩峰靭帯を切除()して、肩峰を削る()。

横から見た肩峰下除圧術

この報告以降、「 腱板断裂の痛みや断裂の原因は、肩峰下インピンジメントだ。」となりました。

ところが2004年に腱板断裂に対して、肩峰下除圧術をした時と肩峰下除圧術をしない時の手術成績を比較したエビデンスレベルの高い論文が発表されました。まさかの手術成績に差がないという結果でした。
その後も同じ調査をしたエビデンスレベルの高い論文がいくつも報告されました。なんと全ての論文が、成績に差がないという結果でした。
この結果から、肩峰下インピンジメントが腱板断裂や痛みの原因だ。」というレベルの高い医学的根拠がなくなりました

ただし基礎研究(実験)では、肩を屈曲外転水平外転をすると腱板と腱板の接触圧が高くなることが報告されています。また、これまで肩峰下除圧を併用して良好な成績を得られてきたという事実もあります。
今後のさらなる研究の結果が待たれます。

肩峰下インピンジメントについては、別の記事でさらに詳しく解説します。

以前一世を風靡したが、現在は否定的な説

以前は、こんな説明が日本中の整形外科でされていたと思います。
「腱板の上にある肩峰という部分に骨の棘ができています。この棘が腱板と擦れて、痛みの原因になったり、腱板断裂の原因になります。」

赤い部分が骨棘:レントゲンで肩峰がこのような形に見える。

右肩を横から見た写真。が骨棘

1980年代、1990年代は、全てをインピンジメントと結ぶつけて考えるような時代でした。

では、「昔に大流行して、今は否定的な説」を詳しく説明していきます。

1986年にアメリカの整形外科医 Louis U. Biglianiが、肩を横から見たようなレントゲンを撮影したときに、肩峰がどのように見えるかで3つに分類しました。

タイプI:扁平型

タイプII:弯曲型

タイプIII:鈎型(骨棘あり)

腱板断裂では、タイプIが17%、タイプII が43%、タイプIIIが39%と報告しました。

タイプI → 平らだから、腱板への圧力が小さい → 断裂が少ない
タイプIII → ピンポイントで強く擦れる → 断裂しやすい
という風に考えられるようになりました。つまり、この骨棘部分で強く肩峰下インピンジメントしていると考えられました。

ところが、1990年代以降それを否定する論文がどんどん出てきます。内容は、
・ 年齢とともにタイプIIIが増える。腱板断裂も年齢とともに増える。腱板断裂の人でタイプIIIの割合が高いのは、年齢層が高いからである。

・ 肩峰に付着する靭帯に対して、引っ張るストレスが繰り返される → 骨棘ができる

・ 骨棘は靭帯の中にできるので、棘の先端部分で腱板が擦れることはない

が肩峰に付着する靭帯

・ 骨棘は、腱板断裂によってさらに大きくなる。つまり。大きな骨棘は腱板断裂の原因でなく、結果としてできている可能性が高い

またレントゲンでは、肩峰の形態を正確に評価できないこともわかりました。

「肩峰の骨棘が、腱板断裂の原因にはならない。」と肩関節外科のバイブルと言われている「Rockwood and Matsen’s The shoulder」にも書かれています。肩峰下インピンジメントを支持する先生でも、「肩峰の骨棘と腱板が擦れて、断裂の原因になる。」という説を今でも支持する先生は、かなり稀と思われます。

まとめ

腱板断裂の原因は、
1.外傷と自然に切れる場合がある
2.自然に切れるのは、加齢による腱自体の変性が原因
3.肩峰下インピンジメントも原因となる可能性はあるが、確かではない。
4.肩峰の棘は、原因にならない。
となります。

新しい説も提唱されてきてます。今後、どこかで紹介したいと思います。

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