こんにちは。札幌市豊平区の日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会スポーツ医の合六孝広です。
中高年で肩の痛みでお困りの皆様!肩に石灰ができる病気をご存じですか?石灰沈着性腱板炎です。石灰性腱炎とも言います。
この記事は以下のような人にお勧めです!
・肩の痛みが続いている中高年の方
・病院で肩に石灰がたまっていると言われた方
この記事を読めば、石灰性沈着性腱板炎の病態、原因、なりやすい年齢、などがわかります。
石灰沈着性腱板炎に関係する肩の解剖
腱板と肩峰下滑液包
腱板は、肩で最も重要な組織と言っても過言ではありません。
腱板は肩甲骨から起こり、腕の骨(上腕骨)を囲むように付着してます。以下の4つの筋肉を合わせて、腱板と言います。
- 前方:肩甲下筋
- 上方:棘上筋
- 後上方:棘下筋
- 後方:小円筋
があります。
肩峰下滑液包は、腱板の上方を覆っている組織です(ピンクの線で囲まれた組織)。
どんな病気?病態を解説
・ 腱板の中に石灰の結晶(ハイドロキシアパタイト結晶)が形成されます。
・ 腱板の4つの筋肉の中で、どの筋に沈着することが多いか?
表のような順番です。
棘上筋は、51.5%~90%の頻度です。
1位 | 棘上筋 |
2位 | 棘下筋 |
3位 | 肩甲下筋 |
4位 | 小円筋 |
・ 複数の腱に沈着することもあります。8~28.2%の頻度と報告されています。
最近のある論文では、棘上筋66%、棘下筋34%、肩甲下筋12%、小円筋2%の率で沈着してました。また複数腱に沈着している肩が20%あったと報告されていました。
・ 石灰が、肩峰下滑液包まで広がることがあります。
・ 稀ではありますが 石灰は骨まで広がるという報告があります。
私自身も、手術した症例で石灰が骨の中に及んでいた経験があります。
原因
実はよくわかっていません。
腱細胞が軟骨細胞に変化することによって、石灰が形成されると考えられています。
経過
病期が、以下の順に進行するという説があります。ただし、確かなことはわかってません。
石灰化の前駆状態の病期
先ほども述べたように、この時期に腱細胞が軟骨細胞に変化すると考えられています。
石灰化の病期
3つの段階に分かれます。
A.石灰形成段階
ハイドロキシアパタイト結晶が腱の中に形成されて、大きくなります。
B.石灰形成停止段階
石灰の形成が停止します。この期間は、月~年単位で経過します。この時期は無症状であったり、軽度から中等度の痛みがあります。
この時期の石灰は、チョークのような状態と言われています。
C.石灰吸収段階
マクロファージと巨細胞という炎症細胞の食作用によって、石灰が吸収されると考えられています。また同時に石灰が肩峰下滑液包の下や滑液包内に破裂して、強い急性炎症を起こしていることがしばしばあります。
そのため、強い痛みがあります。石灰が破裂した場合は、ほとんど肩を動かせないほどです。
この時期の石灰は濃いミルク状もしくは歯磨き粉のようなペースト状であると言われています。
腱修復の病期
まず石灰が吸収された部分に線維組織が形成されます。その後、正常な腱組織に置換されていくと考えられています。
疫学(頻度、男女差、なりやすい年齢など)
頻度 | 全人口の2%~20%。 |
性別 | 女性に多い。 |
年齢 | 30代~60代に多い |
両側例 | 10~25% |
関連疾患 | 糖尿病、甲状腺機能低下症 |
関連疾患について、解説します。
1.糖尿病
・インシュリン依存性糖尿病では30%以上の人で石灰沈着性腱板炎になるという報告があります。
2.甲状腺機能低下症
症状を出しやすい、経過が長い、手術が必要になる率が高いという報告があります。
まとめ
30代~60代の女性に多い病気です。転倒などのケガがない30代、特に女性では、最初に考える肩の病気です。
今後、石灰沈着性腱板炎の症状、画像診断、治療方法について解説していく予定です。そちらの記事も、ぜひご覧ください。